熊本地震および能登半島地震では1981年~2000年の新耐震の建物の倒壊が見られました。
下の記事にて倒壊原因と考察を書かせていただきましたが、今回は具体的な耐震診断結果をお見せしながら補強シュミレーションをさせていただこうと思います。
新耐震基準の建物なのに全壊!1981年~2000年に建てられた木造住宅の特徴と改善方法を解説 | うまもつこの快適生活 (umamochu.com)
まずは既存建物の診断結果について
シュミレーションする建物として、下記のリフォーム事例~光土間のある家の既存間取を利用したいと思います。
こちらの建物は1985年に新築された木造2階建ての建物です。
新耐震基準の建物ではあるものの、2000年の法改正の内容は対応しておらず、接合部は釘やかすがいなどによるものでした。また、耐力壁のバランスについては検討されていない建物となります。
上の記事では大規模リノベーションの間取に合わせた補強案をまとめさせていただきましたが、今回は間取りは変えずに耐震計算のみ行ってみたいとおみます。
↓まずは1階平面図です
↓2階平面図です
間取を見たときに壁の量が少ないLDKと、壁の量が多い北側水回りのバランスが気になりますね。
耐震診断の結果はどうでしょうか。
まずは倒壊メカニズムです。
やはり、リビング側のほうにねじれて変形してますね。そして、筋交いが外れてしまっています。
また、変形の形状が熊本地震や能登地震みられた新耐震建物の特徴に似ております。
耐震診断の平面図をご覧ください。
青い●が建物の中心 二重丸◎が硬さの中心(剛芯)になります。
赤のハッチのなかに剛芯が納まるのが理想です。
2階はバランスが良いようですが、1階部分は剛芯がはみ出してますね。
すごく悪いというわけではありませんが、やはり大きな地震を受けたときにねじれた変形を起こす要因になります。
そして、下の表が具体的な評価になります。
目指すべき数字としては2つ。
上位構造評点の数値と配置軽減係数の( )の中の数字偏心率です。
筆者が耐震診断を行っている建物の中では数字的には良いほうなのですが、1階のY方向の(0.17)という数字に着目してください。
こちらは偏心率という硬さの中心と形の中心の差異を表す数字なのですが、推奨値である0.15を超えてます。
耐震補強では上位構造評点を1.0以上かつ偏心率0.15以下をめざします。
補強案① 筋交いの接合部のみを強化した場合
補強案①では建物全体ではなく、強度を負担する筋交い部分の金物をⅢからⅠに強化した場合数字がどのように変わるかを見ていきたいと思います。
接合部の違いについては以下の通りです。
それでは診断結果をのせたいとおもいます。
先ほどの補強前の画像と比べると1階部分が変形に耐えておりますが、まだねじれた変形をしております。下の数字をかくにんしてみましょう。
2階については上位構造評点が1.0以上になりましたが、1階はまだ目標値には達しておりません。
それどころか偏心率については悪化してますね。
せっかく接合部が強くなってもねじれが改善しないと思ったように数字は伸びないのです。
補強案② 壁の少ないLDKの筋交い壁を強化する
今度は接合部の条件は変えずに、壁が少ないであろうLDKの筋交い壁に構造用合板による補強を足すことでどのように変化するか見てみましょう。
ちなみに、筋交いのみですと2.0倍壁だった耐力壁が、構造用合板の補強を足すことで4.5倍壁に強化されます。本来は金物を設置したいのですが、数字を比較するために接合部の条件はかえずにいってみます。
1階のみになりますが、5枚の構造用合板を足しただけなのに思ったより評点の数字が良くなっていませんか?
理由は偏心率が小さくなったことで変形量を抑えることができたからです。
建物の負担、耐力壁の負担が減ります。
①と②の両方
①の金物の強化は耐力壁の柱や筋交いが抜けてしまうことを防ぎますが、偏心率が悪いとねじれが生じてしまい、建物の負担は大きくなります。
②構造用合板による耐力壁を足すことは、面で耐えるので柱のほぞぬけ対策としては有効ですが、倍率が高い壁はそれだけ負担率も高いので、やはり接合部も強化したい・・・
ということで、耐力壁の金物の改善+偏心率の改善の両方とも大事だということになりますね。
それは以下の数字や倒壊メカニズムを見ても明らかです。
耐力壁を増やすと更に強くなる
さらに耐力壁を増やしてみたいと思います。
増やすは箇所は基礎があるところにします。
劣化度が0.7のままでこの評価だと結構強いと思います。
あらため画像を比較してみる
↓筋交いのあるところだけ金物補強
↓合板を足しただけ
↓金物と合板の両方
↓更に耐力壁追加
その他の耐震対策
また、そのほかにも様々な耐震対策があります。
・瓦屋根などの重い屋根であるばあい、屋根を軽くする
・水平剛性(火打ち材や剛床などで床の強度を強くする)で、ねじれによる変形に耐える
・広縁などの下屋になっているところの小屋組み水平剛性→2階の耐力壁の力を1階に伝える役割です
・基礎補強する
さらには柱の引き抜きのことをかんがえると、2階と1階の耐力壁の位置を見直したいなどもありますね。
まとめ
実際はリフォームのご相談と並行して耐震計画を行うため、間取が変われば補強箇所も変化していきます。
木造の場合は筋交いを取らなければ壁をとっても大丈夫!と思っている方・・・お客様だけではなくリフォーム業者も案外そんな風にとらえている方が多いのですが、バランスが変わると揺れ方が変わる!というのを知っていただけたらと思います。
それではまた!
コメント