一般的な耐震補強工事から、住みながらできる耐震補強工事まで木造在来工法の耐震補強工事のいろいろをご紹介したいと思います。
補強設計のポイント
耐震補強工事を行うまえに、現状の建物の弱点を把握する必要があります。
そのために既存建物の耐震診断(一般診断)を行うのですが、大きくポイントが三つあります。
その指標として、耐震診断を行っているわけですが改善するべきポイントがありますので、まずはそちらをご説明したいと思います。
①壁量の不足
1950年に建築基準法にて壁量の規定がされましたが、当時の数字は現在の数値の半分程度。その後何度か建築基準法は改定され、来年2025年には現状の1.5倍程度の壁量が規定されるともいわれております。(条件ごとの必要壁量が制定される予定)
②バランス不足
2000年の建築基準法の改定にて、壁量だけではなく建物のバランスについての規定がなされました。バランスが悪いと建物は地震力を受けたときに大きく回転しねじれが生じてしまいます。
上の図は偏心率の説明図になります。
重心(形の中心)と剛芯(硬さの中心)との距離をできるだけ近づける設計が必要です。
ざっくりいうと、開口部の大きい箇所や、広い部屋の周辺の壁は高強度の壁を設計していく必要があります。
③接合部の強度不足
1981年~2000年の建物に多く見られる現象になります。1981年の建築基準法改定により、必要壁量が大幅に増え、筋交い等の高倍率が施工されるようになりましたが、高倍率の壁にはその分大きな地震力が集まってきます。
すると、その力、変形に耐えられず柱が抜けてしまう現象『柱のほぞぬけ現象』がおこり、建物が倒壊する事案が熊本地震や能登半島地震でもみられました。
耐震補強計画についてはこの①壁量を補う②バランスを改善③接合部の見直しの3点を中心に計画してまいります。
リフォーム工事を伴う場合の耐震補強工事
リフォームを行う場際に、間取が変わることで上記で説明した建物のバランスは変わりますので改めて偏心率などの検討を行ったうえで耐震壁を適宜配置していくのですが・・・
工事を行う際に部分的もしくは、全体的な解体工事を行うことになると思いますので、そのついでに耐震壁の施工を提案いたします。
既存の構造(土台、柱、上部の胴差まで)がみえるのであれば、二つ割り(45*90)の筋交いと構造用合板による補強を提案させていただく事が多いです。
2つ割りの筋交いを入れることで2.0倍壁
構造用合板を施工することで2.5倍壁といわれており、合計で4.5倍の耐力が期待できます。
※国交省監修 建築性能基準推進協会発行 耐震診断・耐震改修のススメより抜粋※
接合部の固定金物についてはそのサイズに見合った金物を施工していただき、合板は9mm以上でN50,CN50同等の釘(ビスも可)で周囲は150mm間隔、間柱は継手受け材にも釘打ちします。
倍率の高い耐力壁には地震力も大きく伝わってきますので、柱頭柱脚の接合部も補強して参ります。
リフォーム間取変更とそれに伴う耐震工事については、いくつか記事をUPしておりますのでそちらもご覧いただければと思います。
リフォーム間取のレシピ②~都市型住宅・2.5間間口の家 | うまもつこ@主婦建築士の快適生活 (umamochu.com)
リフォーム間取のレシピ④~クレヨンしんちゃん野原家(前編) 既存の間取を考察 耐震診断 | うまもつこ@主婦建築士の快適生活 (umamochu.com)
リフォーム工事を伴わない場合
内部のリフォームを考えていなかったり、住みながら耐震工事のみ行いたいというご相談も多々あります。
そういったお客様への耐震補強工事については極力工事の負担が少ないもので選択していくのですが
①外部から施工可能な個所を計画
②内部であっても工事範囲が比較的小規模になるように
③天井や床を壊さないで施工できる『かべつよし』
などから適宜計画していきます。
①の外部から施工の場合は、外壁の一部(モルタルやサイディングなど)を取り壊して前述した構造用合板や可能であれば筋交い補強を行い、また復旧する工事になります。
時期的に外部のメンテナンス時期のお客様にはこの方法でもよいのですが、外部の改修を検討していないお客様にとっては、外部の補修は足場の設置の観点から負担になるかもしれません。
そこで②や③で負担の少ない箇所から耐力壁を計画していき、耐力の向上、バランスの改善をしていきますが、押入だけで必要耐力を満たすのが大変なケースも多いので、下で紹介した『かべつよし』を採用させていただく事になります。
『かべつよし』~天井や床を壊さないで耐震工事
↓かべつよしパンフレット抜粋 エイム株式会社
耐力壁を施工する際、天井や床を壊す必要があるのは、土台や上部梁、胴差しまで地震力をしっかり伝えるために筋交いや合板を一体化させる必要があるからなのですが、
こちらの『かべつよし』は、特殊なながーい金物(てもとせーこ・・と言うらしい)を使うことで、天井や床を壊さずとも梁や土台と一体化させることができる商品になります。
一般的な筋交いや構造用合板に比べると単体のお値段は高くなりますが、復旧工事については負担が少なくなるところですので、修繕工事を考えていないお客様にはもってこいの商品かなと思ってます。
強度についても、2つ割り筋交い+構造用合板の4.5倍壁と同等以上の強さとなります
接合部の強化
『柱のほぞぬけ』による倒壊を防ぐには、柱頭柱脚接合部の強化が必要になってまいりますが、建物のすべての柱に対して金物を設置するのは結構大変ですよね。
まずは一般的な柱頭柱脚接合部の種類をあげます。(接合部Ⅰ>接合部Ⅱ>接合部Ⅲ・Ⅳ)
リフォーム工事を伴う場合は、金物補強が可能だと思いますので、接合部Ⅲ、Ⅳの場合は最低限、耐力壁付近については必ず接合部補強を行ってほしいです。
リフォーム工事を行わない場合はいくつか検討することがあるのですが
①床下から柱脚部だけでも補強できないか
②外部から基礎まわりだけでも補強する
③後付けホールダウン金物
という選択肢が浮かびます。
耐震診断の結果でバランスが悪いという結果が出た場合は、弱い側の一部でも結構ですので、何かしらの方法で耐震補強(+接合部補強)を行ってバランスを改善してほしいのですが、単純に接合部の強化という事であればこの内容かなと思います。
③の後付けホールダウン金物については、先ほどご紹介した『かべつよし』を出している株式会社エイムから商品が出ております。すごいですよね。困ったときのエイムさんです。
その名も『かぞくまもる』
パンフレットに柱のほぞぬけについても詳しく記載があったので、引用させていただきます。
HPには施工動画も掲載されていて、非常に分かりやすいです。
こちらのかぞくまもるはまだ提案したことはないのですが、積極的にご案内していきたい商品ですね。
平面剛性の強化
一番最初の項でポイント説明しました建物のバランス。
建物が回転しようとするのに抵抗するのが水平耐力です。
昔の建物だと、直行する梁につなぐ火打ち材がその役割となりますが、最近の建物の多くは根太レス工法となっており、フローリングの下に24mm以上の構造用合板が施工されており、そもそも床の耐力が強くなっております。
気を付けなければならないのが根太工法のなかでも【転ばし根太】です。
転ばし根太は梁や土台の上に直接根太がのっかっている工法になりますが、その根太の接合が弱いと建物の変形と一緒に回転してしまいます。
根太が回転しないように釘をしっかり打ち直し、転び止めを設置するなどの対策も非常に有効です。
また、下屋部分の構造も注意です。
下屋の上に耐力壁がある場合、その耐力壁が受けた地震力を1階の柱や耐力壁に伝えきれず倒壊するケースがございます。(よくニュースなどで直下率云々と言ってますよね)
下屋根の梁と柱の構造を一体かさせることも非常に重要です。
瓦屋根など、重い屋根を軽くするだけでも効果があります
こちらは広く知られている事例ではありますが、一応触れておきたいと思います。
耐震診断を行う際に重い屋根か軽い屋根かによって必要とされる耐力が異なって参ります。
耐震診断は必要耐力に対して保有耐力がどれだけあるかを数値化していきますので、必要耐力が小さくなれば、建物の負担も軽くなるというわけです。
屋根の素材だけではなく、太陽光パネルなどを設置している場合はその分構造の配慮が必要ですよね。
基礎補強
基礎の補強については
①既存の基礎を撤去して(建物はジャッキアップし浮かせます)新たに基礎を施工する
②既存の基礎に新しい基礎を沿わせて施工する添え基礎
③既存の基礎の強度を上げる基礎補強
という選択肢があります。
基礎工事は大掛かりな内容ですので費用もそれなりにしてきます。値段は①>②>③となりますね。
↓添え基礎(※国交省監修 建築性能基準推進協会発行 耐震診断・耐震改修のススメより引用※)
③の基礎補強についてご紹介するのが株式会社THCの【タックダイン】という基礎補強
クラックのある基礎や無筋コンクリート基礎に効果があります。
※タックダイン カタログ画像より引用※
建物のメンテナンスも重要です
建物を強くすることも大切ですが、メンテナンスを行ってしまうと本来保有している強度ですら脅かしてしまいます。
特に雨漏りや白アリについては注意が必要です。
下の記事に詳しく上げておりますが、ベランダやサッシ廻りから雨が回って、柱そのものが腐ってしまうという事もあります。
建物の維持管理にもぜひ目を向けてほしいです。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
補強工事と一言で言っても色々な選択肢がありますね。
重要なのは建物の悪いところを知るというところです。
住まいの健康診断・・・いや家ドックですかね。
悪いところがわからないと手術もできないですから。
逆に言うと、どんなに古いおうちでも健康であれば安心して長く住んで頂けると思ってます。
古い住宅は国産の柱を使っていたり、無垢の素材が風味を増していたり新築にはない味わいと価値があります。
健康維持をしながら、長く大切に住んでいただきたいです。
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