新築住宅と既存住宅では耐震性、安全性の検証方法は異なります。
その違いについて解説するとともに、リフォーム工事のタイミングでの耐震補強工事を奨めたいと思います。
新築の場合
まずは新築の場合
①建築基準法による仕様規定(壁量計算・偏芯率・N値計算・接合部など)
こちらはこれから建築するすべての建物について必ず守らなければならない最低限度の条件になります。
着工前に建築確認申請にてその内容を審査されます
木造2階建て以下かつ500㎡以下であれば、壁量計算、偏芯率計算、N値計算の3つを満たせばOKですので更に詳細の計算は行わないケースも多いです
②品確法による性能評価(耐震等級、断熱等級など)
こちらは建物の品質、グレードを評価する基準となります。
建築確認申請とは別に耐震性や断熱性など建物の評価認定を受けます。
審査は任意となります。(お金も結構かかります)
等級が高かったり、長期優良住宅として認定されたりすることで、保険料の割引や減税制度を受けられることから、大手の住宅メーカーなどでは積極的に取り入れていると思います。
また、省エネ住宅に対しては、自治体による補助金制度がありますし、断熱等級についても関心が高まっていますね。
長期優良住宅では耐震等級2以上である必要があるため性能表示計算にて耐震等級2または耐震等級3を導き出しているようです。
①の壁量計算などに加えて「床・屋根倍率の確認」と「床倍率に応じた横架材接合部の倍率」を検証しております。
③構造計算(許容応力度計算)
許容応力度計算は①②の基準よりもさらに具体的な内容、項目を検証して参ります。
柱の1本・梁の1本・基礎に至るまですべての部材、箇所にどのような力がかかり負担しているかを計算していく非常に細かい構造計算になります。
専門性が高く、筆者もこの許容応力度計算は行ったことはありません。
(試験で学んだだけです)
木造3階建て以上になりますとこの許容応力度計算は義務付けられています。
構造計算を専門で行っている方に依頼することが多いです。
性能表示計算でも耐震等級3は取ることができるのですが、許容応力度計算でとった耐震等級3にはかなわないのではないでしょうか。それくらい力学計算の質が違うように思います。
リフォーム(既存住宅)の場合
リフォームの場合は過去に新築された建物になります。
建築基準法は年数を重ねながら、また大地震を経験しながら随時改善、改正を繰り返して参りました。
※↓参考記事※
過去に新築された建物を新たに建築行為(増築など)を行う場合は、建築基準法の仕様規定を満たしているかどうかチェックします。
条件によっては既存部分と、増築部分を分けて考えることが許されてはおりますが、基本的には壁量計算などを行って、現行法規に合わせる仕様とにしていきます。
建築行為の解説については以下の記事をご確認ください
既存の住宅については、国交省の耐震改修促進法から木造住宅の耐震診断と補強方法が示されており、補強工事による耐震化が推奨されております。
既存住宅の耐震診断①対象建物
・在来軸組工法
・伝統的工法
・枠組壁工法
・混構造の一部木造部分
※注意※
取り扱えるのは3階建てまで
一般の方が診断できる『誰でもできるわが家の耐震診断』では3階建ては対象外としている
混構造については立体的な混構造に限り、その木造部分は適用範囲に入る
例えば1階がRC(鉄筋コンクリート)造、2階3階が木造など。
ただし、建築物の取り扱いは3階建てとなるため、建築行為(増築や主要構造部の過半の修繕など)となる場合は構造計算が必要になります。
法律上の問題もあるので、注意が必要です。
また非木造、や認定工法、特殊構造などは対象外になります。
既存住宅の耐震診断②診断方法
耐震診断の種類は三つ。
①誰でもできるわが家の耐震診断(一般人向け)一般財団法人 日本建築防災協会より引用
②一般診断法(建築士など専門家による)
③精密診断法(建築士など専門家による)
・保有耐力診断法
・保有水平耐力計算による方法
・限界耐力計算による方法
・時刻歴応答解析による方法
誰でもできる わが家の耐震診断 (kenchiku-bosai.or.jp)
※一般財団法人 日本建築防災協会より引用
①の誰でもできるわが家の耐震診断は一般の方がご自身のお住まいの耐震性についてチェックする内容となっておりますが、②③については専門的な知識が必要になるため建築関係者に限定されてます。
②については、建物を壊さずにできる範囲の目視調査にて診断可能
③については壁の内側の構造、柱の接合部など細部に至るまで確認する必要があるため、一部壁や天井を壊して調査する必要があります。
修繕にお金もかかりますし、いきなり③はリスクありますよね。
ということで、専門家に依頼する最初のステップは②の一般診断となるでしょう。
一般診断では現地調査からスタートです。
間取り、開口部の確認
外壁の仕上げ、屋根の仕上げ、基礎の状況、劣化の状況
床下や小屋裏をのぞいたうえで、火打ち材の有無、床剛性の判断、金物の使用状況なども見てまいります。
一般診断では不確定部分が含まれる前提となっているため、安全率として必要耐力を予め割り増す仕様になってます。
より合理的な耐震補強設計には精密診断法による補強設計が必要と判断されています。
②の一般診断をしてみて、補強が必要との判断が出た場合に③の精密診断に進み、より詳しく建物を調べていくのが原則です。
ただし、従来の工法である筋交いや構造用合板による耐力壁など、その性能が明確になっている耐震補強方法においては、一般診断の結果を受けて、耐震補強設計を実施することも可能としています。
という事で、筆者の経験上としては、費用や手間がかかる精密診断には進まず、筋交いや構造用合板による耐力壁補強を用いた一般診断による補強設計を選択する事が多かったです。
今後はお施主様のご希望があれば、精密診断の対応も積極的に取り入れていこうとは思っております。
リフォームのついでに補強のススメ
筆者は長い事、間取り変更を伴うリフォーム工事に携わってまいりました。
リフォームをご検討される方の多くは
使いやすい間取りにしたい
寒さ対策したい
設備を新しくしたい
などをきっかけに動かれる方が多いと思います。
現在の建物の耐震強度にご関心がある方ばかりではありません。
ですが、せっかくリフォームをするのであれば建物の構造が見えるチャンスですのでぜひ補強工事をご検討いただきたいです。
具体的に耐震補強というと構造評点1.0以上の強度を確保する事になります。
「そこまでの大掛かりな工事は検討してない」
という方も、ほんの少しの補強で0.4しかない評点を0.8くらいに上げれたらどうでしょうか。
強度としては倍になります。
また、間取りを変えると強度(評点)も変わります。
リフォームしたことで建物が更に弱くなってしまう事だけは避けてほしいです。
そして出来ればきちんと評点を1.0以上確保していただき、更には1.25、1.5以上と耐震等級2相当、耐震等級3相当というのも目指していただきたいです。
新築の場合の性能表示計算や許容応力度計算を行うわけではないので耐震等級としては同等ではないのですが、ベストではなくてもベターを目指していきたいですよね。
当ブログではリフォーム間取りのレシピとして、間取り変更を伴うリフォーム工事のプラン例、補強例を順次アップして参ります
カテゴリー住まいの提案のほうに上げておりますので良かったらのぞいてみて下さい。
リフォーム間取のレシピ②~都市型住宅・2.5間間口の家 | うまもつこ@主婦建築士の快適生活 (umamochu.com)
リフォーム間取のレシピ③~礒野家をリフォーム(前編) | うまもつこ@主婦建築士の快適生活 (umamochu.com)
また、カテゴリー建築HowTOの構造/耐震にも木造耐震診断の記事を順次上げてまいります
新耐震基準の建物なのに全壊!1981年~2000年に建てられた木造住宅の特徴と改善方法を解説 | うまもつこ@主婦建築士の快適生活 (umamochu.com)
新耐震基準(1981年~2000年)の耐震診断とシュミレーション例 | うまもつこ@主婦建築士の快適生活 (umamochu.com)
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