1981年の建築基準法を境に『新耐震』『旧耐震』と分けて扱われていました。
しかし、下の記事でもあげたように『新耐震の建物』も倒壊しているんです。
新耐震基準の建物なのに全壊!1981年~2000年に建てられた木造住宅の特徴と改善方法を解説 | うまもつこ@主婦建築士の快適生活 (umamochu.com)
そこで今回は、それぞれの地震災害別に被害状況とその原因をおまとめしたいと思います。
耐震性能を分ける年代別基準おさらい
地震の被害状況をご説明する前に建てた時期別の建築の特徴などをおさらいしたいと思います。
被害の状況解析では建築された時期別に分析されているのでご参考にされてください。
~1981年(昭和56年) 旧耐震基準となります。この年に壁量を大幅に見直しします。
※1981年以降の建物を新耐震基準と呼んでおりました。(あえて過去形で申します)
~2000年(平成12年) 接合部の強化、壁配置バランスによる規定がされます。現行法規となります
※阪神淡路大震災の被害から上記の内容が見直されました。
同時にこの年に品確法による耐震等級が設定されております。
【↓壁量について】
【↓接合部について】
【↓バランスについて】(図は偏心率の説明・・・重心と剛芯の差異)
更に2025年4月には建物の省エネ化に伴い、耐震基準も見直されます。
詳しくは下の記事に掲載してます。
2025年建築基準法改正②~木造2階建ての住宅の新築はどう変わる? | うまもつこ@主婦建築士の快適生活 (umamochu.com)
1995年(平成7年) 兵庫県南部地震(阪神淡路大震災) M7.2
平成7年 1月17日 05:46
兵庫県で甚大な被害を受けた、阪神淡路大震災。
データ:Wikipediaより引用
当時のニュース映像があまりに衝撃的で、今でもしっかり記憶にとどまっておりますが、こうして数字を見てみると、10万棟以上の家屋が全壊、半壊も14万近くと・・・本当に信じられない数字です。
死者のうち5000人ほどは家屋倒壊による圧迫死という情報です。
地震発生が早朝の時間帯であったことも影響したかもしれません。
家屋の被害についえは、重い屋根瓦を積んだ伝統的な木造住宅が多く、古い建物に集中していたようですが、比較的新しい建物についても半壊などの被害が多数見受けられます。
古い建物については、1981年に見直しされた壁量不足とういのが直接の原因になります。
瓦を積んでいる重い建物は通常より多くの壁量が必要でした。
基準を満たしていた1981年以降の建物の倒壊原因を調べてみるといくつか問題点があげられました。
あまりに甚大な被害であったため、専門家の方々が倒壊した家屋分析をしてくれました。
・仕口の緊結不足→接合部が抜けてしまう
柱のほぞ抜け現象です。これは耐力壁を配置している周辺の柱でおきやすいです。
耐力壁は地震力を負担してもらうために配置してますが、大きな力を受ける分接合部も強くしなければなりません。釘打ちで止められた筋交いでは地震力が耐えきれなという事がわかりました。
・壁の配置バランスが悪い→家屋が大きく変形して揺れる
一階が駐車場や店舗などの家も多く、崩れるように倒壊していたようです。
こういった家は壁のバランスが悪くなります。
そして、この阪神淡路大震災をきっかけに、5年後の2000年に建築基準法は更に改正されることになります。
2004年(平成16年) 新潟県中越地震 M6.8
H16年 10月23日 17:56
阪神大震災以降に新しい震度計が設けられて初めて震度7を計測した地震となるそうです。
家屋の損害も阪神淡路ほどではありませんが、やはり多くの被害をうけております。
この震災で被害にあった68名の死者のうち直接家屋の倒壊などによる被害者は16名で、他の52人は避難所での生活などによるストレス、エコノミークラス症候群によるものというのです。
家屋の損害については全半壊はおよそ1万7000棟ほど。
中越沖地震では家屋そのものの倒壊よりも宅地地盤の損傷による被害が注目されたそうです。
研究者の分析の結果などを拝読すると、損害建物の多くは盛り土区間に集中しており、中でも切土と盛土の境界部分で顕著だったそうです。
倒壊した建物の特徴としては、阪神淡路大震災のときと同様に旧耐震の建物は瓦の被害や壁量不足による倒壊、1981年~2000年の建物は偏心による倒壊、柱のほぞ抜け現象なども見られております。
豪雪地帯であるため、基礎の高い深基礎の建物、高床式の建物が多い特徴があります。
新しい建物は建築基準法に沿って設計されていると思いますが、建築基準法はあくまで最低限の基準。
2階建ての木造の場合は構造計算は求められていないため壁量計算のみで設計されているケースが多いですが、高床式の住宅については純粋な2階建てとは異なりますので、壁量不足に陥っている可能性があります。
2011年(平成23年) 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)M9.0
平成23年 3月11日 14:46
マグニチュード9.0というとんでもない規模の大地震です。
宮城県沖が震源でしたが、当時東京にいた筆者も大きな揺れを経験し、
マンションのエレベーターは停止しましたし、部屋の色々なものが飛び散ってました。
人的被害も甚大で、今もなお行方不明の方もいらっしゃるとのことで
正式なデータではありませんが死者は12都道県で1万5900人
そして、死因の9割が津波による溺死となります。
家屋の損害についても、津波に押し出されての被害が多かったみたいですね。
基礎と土台を強固につなぐホールダウン金物がなかった2000年より前の建物は流されやすかったと思います。
では、津波被害がない地域についてはどうでしょうか。
ニュースでの報道や航空画像などで見た方も多いと思います。
・屋根ふき材の被害
・地盤形状(液状化など)による被害
があげられます。
ブルーシートで応急処置された民家が散見されましたよね。かなりの広範囲でした。
当時筆者は大規模リフォームや耐震診断の設計業務に携わっておりました。
全国区の会社でしたので、社員で手分けしてOBのお客様の被害状況を全数確認いたしました。
耐震補強を行った物件に関しては、大きな被害なしというデータがありますので、補強の重要性を認識するきっかけともなりました。(仕上げ材のひびなど軽微なものはありました)
2016年(平成28年)熊本地震 M7.3
平成28年 前震 4月14日 21:26 → 本震 4月16日 01:25
かなり最近の出来事で記憶に新しいですよね。
この地震の特徴は大きな揺れを数回繰り返している事。
震度7 2回
震度6強 2回
震度6弱 4回
震度5強 5回
震度5弱 14回
震度5弱までは経験したことがありますが、それもものすごく怖かったです。
そんな恐怖を27回も繰り返し経験した熊本県の皆さんの心情お察しします。
日本建築学会が益城町中心部で地震動が大きく建築物の被害が著しい地域において調査しており、そのデータが建築年代別になっており、耐震設計を行う上で非常に参考にさせていただいております。
※以下日本建築学会のデータより引用
学会による倒壊した家屋の分析が以下の通りです
【旧耐震の建物】(~1981年)・・・これはこれまでの地震と同じ特徴になります
214棟の被害(倒壊率28.2%)
・壁量不足
・バランス不良
・接合部の緊結不足
・建物の劣化
:地形変状
【新耐震の建物】(1981年~2000年)
76棟の被害(被害率8.7%)
新耐震でもこれだけ被害が出ているという非常に注目するべきデータですよね。
中には耐震等級2を取得している建物もあったそうです。
原因についても大きなところはこれまで通りなのですが、より具体的な情報も得られたので例を挙げます。
・筋交いがあっても向きが悪い(圧縮と引っ張りのバランス)
・2P筋交い部分の損傷が多く見られた
・接合部 金物があっても基準を満たしていない(適切な金物ではない)
・開口部が大きく壁のバランスが悪い
・形状によっては実質負担するべき実質壁量が足りてない
・・・例えば
重たい外壁材、ソーラーパネルの重量、オーバーハングした2階部分など
建築基準法の壁量<許容応力度計算の壁量となる内容でした。
2階建て木造は許容応力度計算を行わない分、負担がある部分を安全側に設計するべきですね。
建築基準法では極めてまれに発生する地震(震度6程度)に対して1回耐える設計なんです。
こんな何回も繰り返されることは想定されておりません。
熊本地震は基準法への考え方を見直すきっかけとなりました。
※引用元 国交省住宅局 熊本地震分析資料より
【現行法規の建物】(~2000年)
7棟の被害がありますが、調査の結果しっかりと原因がありました。
・金物なし・・3棟
・地盤変状に起因した倒壊・・1棟
・外壁の重量が重い建物・・・1棟
・耐力壁周辺接合部の設計不良・・・1棟
・局部的に大きな揺れ・・・1棟
と、最後の1棟以外は結局基準を満たしていなかったらしいです。
設計も大事ですが、設計通り基準通り施工することも大事ですよね。
2024年(令和6年) 能登半島地震 M7.6
令和6年 1月1日 16:10
今年の出来事です。筆者は福島におりそこでも大きな揺れを感じました。
熊本地震と共通するのが、比較的大きな揺れを何度も繰り返しているという事。
建築基準法では極めてまれに発生する大規模な地震(震度6程度想定)に1回耐えるという設計にしかなっていないため、繰り返し発生する地震を想定できていないのかもしれません。
研修会などで聞いた最新データによると、新耐震の建物が20棟、現行法規の建物が4棟倒壊したそうです。
速報データによると、4棟のうち2棟は結果的に基準を満たしていない施工不良。
残り2棟には吹抜けがあったそうです。
吹抜けがある部分の水平剛性、偏心率の検討考慮が必要という事になります。
また、能登半島においては復興も進んでいない最中、集中豪雨の被害にも見舞われて繰り返しの避難生活におけるエコノミークラス症候群についても心配ですね。
改めまして、被災地のみなさまにお見舞い申し上げます。
まとめ
過去の地震データから耐震設計を行う上で以下のことを気を付けながら行っております。
・壁量
・バランス
・接合部
・下屋の多い建物の水平剛性
・そもそも建物を健全に劣化させない設計
・吹抜けについても水平剛性、バランスに注目
・重い外壁やソーラーパネルなど負担があるものは割りまして設計
・2P筋交いは使わない
※筋交いは基本910スパンにしてます 小さすぎもダメです
※2P→2間のこと 2スパン1820mm
今後また、詳しい分析データが上がってくるとは思うので注目して待ちたいと思います。
それではまた!
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